IIC News Letter 第8号(令和7年5月配信)
<IIC News Letter第8号>
北海道国立大学機構の産学官金連携統合情報センター(IIC)がお届けするIIC News Letter第8号です。定期的に3大学の教育研究活動や行政・サービス機関、産業界からの最新情報を分析・整理して皆様にお届けします。
目次
1. 特集:世界の乳文化と「ミルク&チーズコンソーシアム」
2. 地方大学が担う地方創生の可能性
3. 大学志願者数ランキングからみる、人気大学の戦略的な取組みとは?
4. 特許情報
1. 特集:世界の乳文化と「ミルク&チーズコンソーシアム」
帯広畜産大学の平田昌弘教授(人間科学研究部門)は、世界の乳文化についての研究を行っています。
牧畜民の多くは、家畜そのものは生かし永らえ、その生産物の乳を主に利用して、生存戦略を立てています。人類が西アジアで乳を利用し始めて約1万年が経過しますが、平田教授は牧畜史を乳文化の視点から再構築する研究をしています。これまでに、乳文化は西アジアに一元的に起源し、北方圏と南方圏に二極化して発達してきたとする仮説「乳文化の一元二極論」を提起しています(図1)。
図1.アフロ・ユーラシア大陸における乳文化の一元二極化仮説
ユーラシア各地の牧畜民の人々は、素晴らしい乳製品を数多く生み出しています。その乳加工技術や乳製品利用はまだまだ知られていないことが多く、参考になる乳文化で溢れています。近年、日本では毎年のように学校の学期末に生乳余剰が問題となり、酪農家にとって生乳生産を安定的に継続できるか不安な状況に陥っています。この主な要因は、日常の食生活に乳製品が継続的に一定量消費されず、日本に乳文化がしっかりと根づいていないことによります。牧畜民の乳文化は、日本の乳製品の消費拡大に寄与するアイデアで溢れていると言っても過言ではありません。
2024年7月に帯広畜産大学、乳業企業、チーズ工房、乳業関連団体などが中心となり「ミルク&チーズコンソーシアム」が設立されました(図2)。このコンソーシアムの結成には、「乳製品を日常生活の中で消費拡大する」、「乳製品の消費拡大をもって、酪農家が安心してミルクを搾れる環境に貢献する」、そして、「世界に通用する知識と技術を習得できる乳製品専門教育拠点を創る責任を負う」という高い理想が掲げられています。地域性のある乳製品の開発、講義や実習を通じた人材育成、乳製品の消費構造と普及戦略を分析する乳文化研究、微生物ライブラリーの構築、多分野のステークフォルダーとの交流を通じた共有価値の創造など、業界の垣根を越えて多様な活動を展開し、酪農業界に寄与していきたいと願っています。興味のある方、学び合いたい方、一緒に知識と経験を伝え合いたい方はぜひお声がけください。切磋琢磨しながら、共に日本の乳文化を創っていきましょう。
図2.ミルク&チーズコンソーシアム構想の概念図
帯広畜産大学 教員紹介 平田昌弘教授:
https://www.obihiro.ac.jp/faculty-r/masahiro-hirata
Researchmap 平田昌弘:
https://researchmap.jp/read0069954/
Pastoralism in Bulgaria:
http://www.pastoralismbg.com/index.php?lang=1
2. 地方大学が担う地方創生の可能性
地方創生2.0の基本構想について、以前のニュースレターで配信しました(IICニュースレター第5号(令和7年2月配信))。今回は、地方大学が担う地方創生の可能性について考えます。
日本の人口減少は加速しており、特に地方はより深刻な問題となっていますが、一方で人口の東京一極集中もすすんでいます。日本は今、魅力ある地域社会を活性化させ、地域に人を呼び込むことを念頭にした地方創生が求められています。
1つの方策として、地方の大学が中核となって地域社会との連携を強化し、産業の振興に貢献することで、地方創生につなげていく、という考えがあります。地方大学は、地域の知的資源として、産業の活性化や人材育成に貢献できると考えますが、具体的には以下のような取組みが必要となります。
まず、地域産業との連携強化です。地方大学が地元企業や自治体と共同研究を進め、新たな技術やビジネスモデルを開発することで、雇用創出と経済活性化につながると思います。農林水産業、観光業、再生可能エネルギー分野など、大学発ベンチャー支援も有効と考えます。
また、学生の地域定着の促進が挙げられます。インターンシップやプロジェクト型授業を通じて、学生が地域社会と深く関わる機会を提供することで、卒業後も地元に留まる人材を増やせるのではないかと思います。また、起業支援や新しい働き方の提案も有効と考えます。
さらに、国際化とデジタル化の推進も重要です。海外からの留学生を積極的に受け入れ、リモートワークやオンライン教育を活用することで、地方の魅力を世界に発信し、多様な人材を呼び込むことができると思います。
北海道国立大学機構の3大学においても、このような取組みを積極的にすすめることで、地域に新たな価値を生み出し、持続可能な発展を実現できると思います。大学が地域とともに成長する未来が期待されます。
3. 大学志願者数ランキングからみる、人気大学の戦略的な取組みとは?
2025年度の大学志願者ランキングにおいて、千葉工業大学が全国1位となりました。千葉工業大学の志願者は16万人以上となり、これまで11年連続で首位を維持していた近畿大学を抜いたニュースは話題となりました。このような人気大学を含め、大学志願者数が多い大学は、様々な取組みを戦略的に行っています。
例えば、
・時代に合わせた学部、学科の再編や新設
・大学、あるいは学部の大都市への回帰による利便性向上
・受験生の経済的負担を軽減する入試制度の工夫
・積極的な広報活動による認知度、ブランド力の向上
・学習環境、設備の充実
・積極的なキャリア支援
などがあります。
地域への貢献を目指す北海道国立大学機構の3大学にとって都市部への回帰は現実的ではありませんが、学生の皆様に興味を持ってもらえるように様々な取組みを行っています。3大学の学習環境は非常に充実していますし、キャリア支援にも積極的に取り組んでいます。また、地域のニーズに対応する最先端の研究もたくさん行われています。
一方、広報活動についてはもっと積極的に行う余地があります。社会の関心を集め、大学ブランド力や認知度向上に貢献できるように、3大学の魅力的な情報を積極的に発信していきます。
北海道国立大学機構の3大学では、以下のとおりオープンキャンパスを開催します。大学の雰囲気、魅力を肌で感じていただける貴重な機会ですので、ご覧ください。
小樽商科大学オープンキャンパス:2025年8月8日(金)
https://nyushi.otaru-uc.ac.jp/examination/opencampus/
帯広畜産大学オープンキャンパス:2025年7月26日(土)
https://www.obihiro.ac.jp/navi-open
北見工業大学オープンキャンパス:2025年6月29日(日)※大学祭と同時開催、7月26日(土)、9月20日(土)(全3回開催)
https://www.kitami-it.ac.jp/info/event/opencampus/
4. 特許情報
北海道国立大学機構が持っている知的財産権を順次ご紹介しています。今回は、「数nmオーダの高品質な金属膜を低温下で得る膜製造技術」と「培養細胞を迅速に得る技術」の2件。共同研究やライセンス契約検討の参考にしてください。
内容は、特許請求の範囲、発明の詳細な説明、図面の記載に基づいてまとめています。ご興味がある方は、ワンストップ窓口までお問い合わせください。
特許第5268104号(窒化金属膜、酸化金属膜、炭化金属膜またはその複合膜の製造方法、およびその製造装置)
低温下で抵抗が低く、膜厚が極めて薄い金属膜、または複合膜を製造する技術により、低温条件で不純物が少ない膜が得られるため、コーティング膜などの広い用途に用いることができます。
※画像を選択するとPDFファイルが開きます。
特許第4724836号(細胞遊離法、細胞遊離液、細胞培養法、細胞培養液、細胞液、細胞液製剤、細胞定着法及び細胞定着液)
実験・研究に合わせて細胞を利用するために、培養させた接着性動物細胞を担体から損傷無く剥離させ、損傷の無い正常な細胞を迅速且つ大量に得ることができる発明です。また、細胞を浮遊状態で培養できるため、培養細胞を容易に輸送運搬することができます。
※画像を選択するとPDFファイルが開きます。
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