NEWS

2025/07/23

IIC News Letter 第10号(令和7年7月配信)

<IIC News Letter第10号>

北海道国立大学機構の産学官金連携統合情報センター(IIC)がお届けするIIC News Letter第10号です。定期的に3大学の教育研究活動や行政・サービス機関、産業界からの最新情報を分析・整理して皆様にお届けします。

 

目次

1. 特集:スタートアップが北海道経済の未来を拓く

2. 地域課題をビジネスで解決する時代へ―ゼブラ企業や大学が描く未来

3. 「畜大牛乳」が地域の誇りに―十勝発、教育と研究が融合した地域ブランド

4. 北海道国立大学機構の特許状況

 

1. 特集:スタートアップが北海道経済の未来を拓く

2022年、「スタートアップ5か年計画」(内閣府)は、少子高齢化による労働力人口の減少や既存産業の国際競争力低下といった課題に直面する日本において、新たな産業創出と経済成長のエンジンとしてスタートアップの育成が不可欠であるという認識のもとで策定されました。GAFAM(2020年当時)を除くS&P495とTOPIXの間に大きな差がないことから、特定の巨大プラットフォーム企業が市場全体を牽引していることが判ります。

世界的にスタートアップを国家戦略として推進する潮流がある中で、日本が国際的なイノベーション競争に取り残されることへの強い危機感が背景にあります。特に、ユニコーン企業(※創業10年以内で10億ドル以上の評価額が付けられている非上場企業)の数やスタートアップへの投資額において主要国に比べて日本が大きく劣っている現状を打破し、持続的な成長を実現するための抜本的な改革が求められてきました。

北海道内でも、スタートアップへの注目が高まっています。2020年には札幌・北海道がスタートアップ・エコシステム推進都市に選定され、(※2025年第2期スタートアップ・エコシステム拠点都市)成長が期待される道内スタートアップを選定する「J-Startup HOKKAIDO」(現在認定企業数:53社)が開始されました。

さらに、2021年には11大学4高専5法人が連携参加する「大学等発スタートアップ育成ネットワーク」(※HSFC、現在は19大学4高専に拡充)が設立されました。

2023年には全国初、札幌市、北海道、北海道経済産業局の三行政と民間メンバーを含むオール北海道体制のスタートアップ支援組織「STARTUP HOKKAIDO」が始動しました。

現在、STARTUP HOKKAIDOが把握しているスタートアップ企業は146社で、資金調達額は以下の通りです。

(STARTUP HOKKAIDO提供)

スタートアップ企業は、既存の産業構造にとらわれない新たなビジネスモデルや技術を生み出すことで、北海道経済の多様化を促進します。例えば、一次産業、観光、医療、ITといった北海道の強みと掛け合わせることで、これまでになかった価値を創出し、新たな市場を開拓する可能性を秘めています。これは、特定の産業への依存度を下げ、経済全体のレジリエンス(回復力)を高めることにも繋がります。

以上のことから、北海道におけるスタートアップ企業の成長は、新たな産業と雇用の創出、資金循環の活性化、そしてイノベーションの加速を通じて、北海道経済の持続的な発展と地域全体の活性化に不可欠な存在であると言えるでしょう。

 

 

 

<筆者>
産学官金連携統合情報センター(IIC) 産学官金連携コーディネーター 佐々木身智子


(プロフィール):
日本電気ソフトウェア株式会社(現NECソリューションイノベータ)にソフトウェア技術者として勤務の後、札幌市内のITベンチャーにて創業から17年間勤務(最終は執行役員)後独立。中小機構が運営する「北大ビジネス・スプリング」にてチーフインキュベーションマネージャーとしてスタートアップ支援を7年間経験した。

現在は、北海道大学 スタートアップ創出アドバイザー。さっぽろ産業振興財団(Sapporo Business VILLAGE)にてリードインキュベーションマネージャー、STARTUP HOKKAIDO 副委員長。

 

 

2. 地域課題をビジネスで解決する時代へ―ゼブラ企業や大学が描く未来

「人口減少」、「高齢化」、「産業の空洞化」——日本各地が抱えるこうした課題に、いま企業が立ち上がろうとしています。中小企業庁は令和6年3月、「地域課題解決事業推進に向けた基本指針」※1を策定し、社会課題を“成長のエンジン”に変える企業=ローカル・ゼブラ企業の育成を本格化させました。

この指針では、単なるCSR(企業の社会的責任)を超えて、収益性と社会的インパクトの両立を目指す事業モデルが求められています。例えば、地域の交通弱者を支える移動サービスや、耕作放棄地を活用した再生型農業など、課題そのものをビジネスチャンスに変える発想が鍵となっています。

さらに、令和6年度には全国で地域実証事業が展開され、北海道の企業も実証事業に参加しています※2。中小企業庁は、こうした企業が自治体や金融機関、大学などと連携し、地域エコシステムを構築することを後押ししています。

また、大学においては、小樽商科大学が地域課題をビジネスで解決するための多様な取り組みを行っています。例えば、小樽市、ニセコ町、倶知安町などと連携し、観光を軸とした地域ブランドの確立と人材育成を推進する取組み※3や、学生が地域に滞在し、地域課題をビジネスアイデアで解決する実践型プログラムの取組み4を行っています。北海道内の大学・高専を対象にした起業支援人材育成プログラム5も展開しています。

この動きは、地方創生の新たなフェーズとも言えます。地域課題をビジネスで解決するゼブラ企業や大学が、地域の未来を形づくる主役となり得ます。今後、このような取組みがどのように地域社会と共に進化していくのか——その歩みに注目が集まっています。

 

※1:中小企業庁「地域課題解決事業推進に向けた基本指針」
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/chiiki_kigyou_kyousei/2024/20240301.html

※2:令和6年度「地域の社会課題解決企業支援のためのエコシステム構築実証事業(地域実証支援を通じたエコシステム調査事業)」の事業成果報告書
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/chiiki_kigyou_kyousei/2025/ecosystem_report.html

※3~5:地域課題をビジネスで解決するための小樽商科大学の取り組み
https://www.otaru-uc.ac.jp/cgs/iag/regionalcooperation/
https://www.otaru-uc.ac.jp/news/332637/
https://www.otaru-uc.ac.jp/cgs_news/469400/

 

3. 「畜大牛乳」が地域の誇りに―十勝発、教育と研究が融合した地域ブランド

帯広畜産大学が製造する「畜大牛乳」が、いま地域ブランドとして注目されています。1962年に酪農学科乳製品研究室でノンホモ牛乳を製造したのが「畜大牛乳」のはじまりです。長い歴史がある畜大牛乳は、その高い品質とこだわりにより、地域住民の支持を集め、今では“十勝の味”として定着しつつあります。

畜大牛乳は、生乳100%・成分無調整の高温殺菌牛乳で、週に3回製造されます。牛の飼料や季節によって乳脂肪分が変化するため、冬には濃厚な味わいになるなど、自然のままの風味が楽しめるのも魅力のひとつです。さらに、2025年6月には殺菌方法を改良し(120℃2秒間から、72℃15秒間)、ゆっくりと殺菌することで搾りたてのさっぱりとした風味が楽しめる、リニューアルした畜大牛乳の販売が開始されました。

地域ブランド化の背景には、FSSC22000認証の取得や、地元産生クリームを使った「畜大アイスクリーム」の展開など、製品ラインの拡充もあります。大学構内の売店やイベントで販売されるこれらの製品は、学生と地域をつなぐ“食の架け橋”として親しまれています。

「畜大牛乳」は単なる大学の製品ではなく、教育、研究、さらには地域への貢献が融合したブランドとして、十勝の食文化を支える存在といえます。今後、地元企業とのコラボレーションや観光資源としての活用も期待されています。

なお、「畜大牛乳」は帯広畜産大学生活協同組合のほか、十勝管内のスーパー(ハピオ、ダイイチ、フクハラ(一部取り扱いなし)など)で買えます。

帯広畜産大学 畜大牛乳&畜大アイスクリームについて
https://www.obihiro.ac.jp/facility/fcasa/product
https://www.obihiro.ac.jp/news/68811

 

 

4. 北海道国立大学機構の特許状況

大学では、研究者たちが日々、さまざまな技術やアイデアを生み出しています。そうした成果の中には、社会に役立つ「発明」として特許を出願しているものもあります。たとえば、食品分野の技術や、環境技術、デジタル技術など、生活に直結する技術がたくさんあります。

大学の特許は、企業との共同開発やライセンス契約を通じて、実際の製品やサービスとして世の中に広がっていきます。企業の方であれば、大学の特許を活用することで新しいビジネスのヒントが見つかるかもしれません。ぜひ一度、北海道国立大学機構が有する知的財産をご確認ください。

今月は、北海道国立大学機構がどのような分野に特許を出願しているのか、についてご紹介します。

まず、特許の出願件数から見ていきます。このデータは、独立行政法人 工業所有権情報・研修館(INPIT)が提供する、特許情報検索サービス(J-Plat Pat)を用いて調査したものです。

2015年から2024年の間において、年によってばらつきはありますが、北海道国立大学機構(及び3大学)は、およそ1年間で10数件~25件程度の特許出願をしており、公知になっています。

この中には、北海道国立大学機構(あるいは3大学)が単独で特許出願したものの他、企業と共同出願したものも含まれます。

次に、北海道国立大学機構がどのような分野に特許出願をしているかを示しますが、その前に、特許分類についてご説明します。

日本には、特許文献を技術内容ごとに分類するために、FI(ファイル・インデックス)という独自の分類記号があり、すべての特許出願に付与されています。このような特許分類により、詳細に技術分野が細分化され、特許検索の際に役立ちます。FIは右図のような8つのセクションで分類されています。

FIは、さらに細かい階層構造(クラス)で分類されており、上位から下位へと次第に技術内容が細分化されていきます。例えば、Aセクションの中のA61というクラスは、「医学または獣医学」となります。

それでは、北海道国立大学機構は、どのような分野に特許出願をしているでしょうか。

右図のように、2015年~2024年に公知になった北海道国立大学機構の特許出願は、特にAセクション(生活必需品:医療、農業、食品、家庭用品など)、Cセクション(化学・冶金:有機化学、無機化学、金属処理など)、Gセクション(物理学:測定、光学、核技術など)が多く、このような分野に注力していることがわかります。

さらに詳しくFIクラスごとの出願をみると、下記のような結果が得られます。特に獣医学や農業・畜産、食品などの農畜産系と、化学、測定、電気系などの工学系に関する出願を多くしていることがわかります。

 

今後も、北海道国立大学機構が有する知的財産についてご紹介する予定です。ご興味がある方は、どのようなお問い合わせでも構いませんので、ワンストップ窓口からご連絡ください。

 

———————————————————————————————————————

IICニュースレターでは、地域の課題を解決し、新たな価値を共創するための情報を発信しています。また、企業へのインタビューなどを通して、地域の未来をいっしょに考える場づくりにも活用しています。

今後、こんな特集をしてほしい、もっとこういう取組みが必要だ、といったご意見、ご要望もお待ちしています。また、この記事は面白かった、あるいは面白くなかったなど、なんでもお気軽にお問合せください。

 

国立大学法人北海道国立大学機構
産学官金連携統合情報センター(IIC)
〒080-8555 帯広市稲田町西2線11番地
Tel:0155-65-4344
E-Mail:iic@office.nuc-hokkaido.ac.jp

IIC News Letter の停止はiic@office.nuc-hokkaido.ac.jpまでご連絡ください。

NEWS一覧