IIC News Letter 第11号(令和7年8月配信)
<IIC News Letter第11号>
北海道国立大学機構の産学官金連携統合情報センター(IIC)がお届けするIIC News Letter第11号です。定期的に3大学の教育研究活動や行政・サービス機関、産業界からの最新情報を分析・整理して皆様にお届けします。
目次
1. 特集:北海道・十勝に総額100億円寄附へ。オープンハウスグループが挑む「地域共創プロジェクト」とは?
2. 大学と地域の共創による「十勝型フードシステム」事業が始動!
3. 国内初!畜産分野でカーボンクレジット発行
4. 特許情報
1. 特集:北海道・十勝に総額100億円寄附へ。オープンハウスグループが挑む「地域共創プロジェクト」とは?
戸建て住宅を中心に急成長を続けるオープンハウスグループ(東京:荒井正昭社長)。同社が北海道十勝地域の再生のため総額100億円の寄附をする、というニュース※1は昨年、衝撃をもって受け止められました。同社はこれまで、社長の出身地である群馬県を中心に、地元バスケットボールチームの買収や温泉街・スキー場の再生、学校跡地の利活用など、「地域共創プロジェクト」を進めてきました。次の一手がなぜ十勝だったのか、十勝でどんな事業に取り組むつもりなのか、我々北海道国立大学機構が参画できる可能性はあるのか——。同社のキーマンでもあるサステナビリティ推進部の横瀬寛隆氏にうかがいました。
株式会社オープンハウスグループ サステナビリティ推進部 横瀬寛隆氏
——御社が地域共創に関わるようになったきっかけは?
横瀬:弊社は創業27年のオーナー企業です。社長の出身地である群馬のバスケットボールチーム(群馬クレインサンダーズ)は財務状況が芳しくなく苦労していました。それを「地域課題の解決」と定義づけて経営参画したのがきっかけです。チームの本拠地を前橋市から太田市に移し、市と連携してスポーツを軸とした街づくりを進めました。きっかけはスポーツですが、地域共創の目的は「まち・ひと・しごと」の循環を取り戻すことです。我々は不動産業ですので、寄附して終わりではなく、まずは街にテコ入れして、将来は住宅販売にもつなげたいと考えています。寄附は企業版ふるさと納税の仕組みを使っています。
——なぜ十勝なのですか?
横瀬:帯広市で旧藤丸デパートの再建を目指している、そら社の地域共創の取り組みを知り、共感したのがきっかけです。両社で新たに「かぜ」という会社を立ち上げました。十勝で地域共創のモデルを作って、ゆくゆくは全国展開したいと考えています。
——地域共創に向け、大学に求められることは?
横瀬:群馬のみなかみ町ではスキー場を事業継承したほか、町や東京大学、群馬銀行と一緒に、温泉街の再生を進めてきました。産官学金連携の街づくりです。民間企業が一つの地域に入り込んで動くと警戒されることが多いのですが、学生たちが街の未来を語ることは歓迎されます。みなかみ町でも学生たちが住民の声を吸い上げ、様々な提案をしてくれました。民間企業は経済面に目が行きがちですが、大学や学生には忖度なしで理想を追い求めてもらいたいです。調査・研究を通じて夢を描いて欲しいですね。私たち民間企業がそれを実現していきます。
——今後の展開は?
横瀬:群馬での地域共創の取り組みを通じて、上手くいきそうなこと、難しいことが見えてきました。そろそろ群馬以外の地域にも展開するタイミングです。十勝地域ではまだまだ白紙の部分が多いのですが、旧藤丸デパートの再生のほか、温泉街の再生なども手掛けていければと考えています。
<インタビューを終えて>
「地域共創」とは、企業が「地域と協力」しながら課題を解決し、資源や特長を生かした新たな価値を「地域とともに」創造することを意味しており、地域に「まち・ひと・しごと」の好循環を生み出すことを意味します。オープンハウスグループの「地域共創プロジェクト」には、単なる資金提供にとどまらず、地域の未来を共に描き、共に創る——その強い意思が込められていました。
同社の取り組みをうかがって、我々北海道国立大学機構が掲げる「教育と研究を通じて地域の課題を解決し、活性化させたい」という思いと非常によく似ていると感じました。(北海道国立大学機構 産学官金連携統合情報センター(IIC):髙橋)
オンラインによるインタビュー
※1:
https://openhouse-group.co.jp/news/release/pdf/20241219_1.pdf
https://openhouse-group.co.jp/news/release/pdf/20250217_1.pdf
https://openhouse-group.co.jp/news/release/pdf/20250513_2.pdf
2. 大学と地域の共創による「十勝型フードシステム」事業が始動!
令和7年7月、帯広市が申請した「十勝型フードシステムの形成-農畜産と食品加工の連携による価値創出-」が、内閣府の「地方大学・地域産業創生交付金事業」に採択されました※1, ※2。この取り組みは、十勝地域の豊かな農畜産資源と食品加工技術を活かし、地域産業の活性化と持続可能な成長を目指すものです。
北海道国立大学機構(帯広畜産大学・北見工業大学・小樽商科大学)は、とかち財団および帯広市と連携して事業の中核を担い、地域と大学が一体となって「食と農の未来づくり」に挑戦します※3。大学の役割は、次世代の農畜産・食品加工技術の研究開発と、それを支える人材育成にあります。3大学融合による教育プログラムや研究開発の強化により、地域の課題解決に直結する実践的な教育が可能となり、学生の学びが地域社会に還元されます。さらに、農業、畜産、食品科学、経済学などの分野を横断する研究は、革新的な技術や製品の創出につながります。
この事業は、令和7年度から令和16年度までの10年間にわたり実施され、前半5年間は交付金による重点支援が行われます。大学にとっては、地域とともに歩む長期的な取り組みであり、地方創生のモデルケースとして全国に発信されます。
大学が地域の産業と連携し、教育・研究を通じて社会に貢献する姿勢は、まさに「キラリと光る地方大学づくり」の体現といえます。
今後の展開にぜひご期待ください!
※1内閣府ウェブサイト 地方大学・地域産業創生交付金
https://www.chisou.go.jp/sousei/about/daigaku_kouhukin/index.html
※2帯広市ウェブサイト 地方大学・地域産業創生交付金事業
https://www.city.obihiro.hokkaido.jp/sangyo/sangyo/1020436.html
※3令和7年8月1日(金)に記者発表(YouTubeで公開)
https://youtu.be/E4q22SKA21g
3. 国内初!畜産分野でカーボンクレジット発行
カーボンクレジットは、温室効果ガスを削減し、その効果を「見える化」して売買できるようにした制度です。企業や団体が排出量を減らす努力をしたり、森林を保護してCO₂を吸収したりすると、その分の「クレジット」が発行されます。一方、排出量が多い企業はこのクレジットを購入することで、自社の排出量を相殺(オフセット)でき、「実質的に排出していない」とみなされるものです。
令和7年7月、国内の畜産業において初めて、温室効果ガス排出削減を実証したカーボンクレジットが正式に発行されました※1, ※2。これまで環境負荷の大きさが課題とされてきた畜産分野において、持続可能性と経済性を両立する新たな一歩が踏み出された形です。
対象となったのは、肉用牛の飼育過程で発生するものであって、牛のゲップなど消化過程で生じるメタンや、排せつ物に由来する一酸化二窒素(N₂O)など、畜産業における温室効果ガス排出の多くを占めています。
メタンはCO₂の約28倍、一酸化二窒素はCO₂の約265倍の温暖化効果があるとされ、地球温暖化対策の中でも重要な課題となっています。今回のプロジェクトでは、飼料の工夫や飼育管理の改善により、排出量の削減を実現。環境負荷を抑えながら生産性を維持するモデルとして注目されています。
この成果は、畜産業の新たな可能性を示すだけでなく、大学や研究機関にとっても大きな意味を持ちます。農学・畜産学・環境科学などの分野が連携し、現場と研究が融合することで、実践的な教育や新たな研究テーマの創出につながります。特に、地域の大学がこのようなプロジェクトに参画することで、学生が社会課題に触れながら学ぶ機会を得られ、地域産業とのつながりも深まります。
今後は、牛以外の畜種への展開や、農業分野との連携による包括的な温室効果ガス削減モデルの構築も期待されています。また、畜産分野におけるカーボンクレジットの普及が進めば、環境対策と経済性を両立する新しい畜産のかたちが全国に広がる可能性があります。
畜産業が環境対策の担い手となる時代がすでに始まっています。
※1 JA鹿児島県経済連公式発表 https://www.karen-ja.or.jp/news/202507151343.html
※2 JAcom農業協同組合新聞 https://www.jacom.or.jp/niku/news/2025/07/250716-83254.php
4. 特許情報
北海道国立大学機構が持っている知的財産権を順次ご紹介しています。今回は、「ガスの輸送・貯蔵・供給に好適なガスハイドレートを簡易生成する技術」と、「均一な微細パターンを転写することが可能なガラスの表面処理技術」の2件です。共同研究やライセンス契約検討の参考にしてください。
内容は、特許請求の範囲、発明の詳細な説明、図面の記載に基づいてまとめています。ご興味がある方は、ワンストップ窓口までお問い合わせください。
●特許第7681888号(ガスハイドレート生成方法)
ガスハイドレートは、メタンなどのガスが水と結びついて氷状になったものです。ガスハイドレートは、体積あたりに大量のガスを閉じ込めることができるため、ガスの輸送、貯蔵、供給に好適です。ただし、ガスハイドレートはまだ開発途中であり、生成には課題があります。この特許は、ガスハイドレートを簡便な手法で繰り返し生成するための技術です。疎水性アミノ酸を含むアミノ酸水溶液を用いることが特徴で、圧力容器からのガスハイドレートの取り出しや圧力容器へのアミノ酸水溶液の投入を繰り返す必要がなく、ガスの運搬や貯蔵に要するコストを抑制できます。また、環境に悪影響を与える物質を用いず、環境に負荷を与えるおそれがありません。
※画像を選択するとPDFファイルが開きます。
●特許第7396653号(ガラスの表面処理方法及び表面処理装置)
指定した処理範囲に均一な微細パターンを転写することが可能なガラスの表面処理方法、装置に関する技術です。コロナ放電を伴う処理が不要なため、ガラス板の所望の領域に対して微細パターンを転写できます。また、コロナ放電によるテンプレートのダメージが生じないため、ガラス板に均一な微細パターンを転写できます。そして、大がかりな設備は必要なく、製造コストを抑制できます。
※画像を選択するとPDFファイルが開きます。
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IICニュースレターでは、地域の課題を解決し、新たな価値を共創するための情報を発信しています。また、企業へのインタビューなどを通して、地域の未来をいっしょに考える場づくりにも活用しています。
今後、こんな特集をしてほしい、もっとこういう取組みが必要だ、といったご意見、ご要望もお待ちしています。また、この記事は面白かった、あるいは面白くなかったなど、なんでもお気軽にお問合せください。
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