IIC News Letter 第14号(令和7年11月配信)
<IIC News Letter第14号>
北海道国立大学機構の産学官金連携統合情報センター(IIC)がお届けするIIC News Letter第14号です。定期的に3大学の教育研究活動や行政・サービス機関、産業界からの最新情報を分析・整理して皆様にお届けします。
目次
1. 【研究紹介】乳関連産業の活性化を目指して-未利用資源の有効活用-
2. まちの魅力と地域ブランド戦略
3. 知的財産の活用~地域の“知”を価値に変える取組み
1. 【研究紹介】乳関連産業の活性化を目指して-未利用資源の有効活用-
日本の乳関連産業は、需給ギャップの慢性化、人口減少や少子高齢化による需要低迷、飼料の価格高騰や輸入依存、環境への負荷、労働力や後継者不足、アニマルウェルフェアへの対応など、多くの構造的問題を抱えており、持続可能性の実現が喫緊の課題です。
その打開策として、ICTやロボット導入による省力化と大規模集約化、自給飼料の国内流通モデル構築、飼養環境の改善、乳製品の消費拡大につながる啓蒙活動、海外市場への販路拡大など、さまざまな取り組みが進められています。
さらに、乳関連産業で生み出される未利用資源についても注目が集まっています。帯広畜産大学の福田健二教授は、乳等命令により市場への流通が禁止されている「初乳」と、ナチュラルチーズの製造過程で排出される「チーズホエイ」の有効活用を目指して研究しています。
未利用資源をめぐる問題の解決には、ふたつの方向性が考えられます。ひとつは有用な機能性成分の探索による未利用資源の高付加価値化、もうひとつは未利用資源の排出削減につながる技術開発です。
初乳には免疫グロブリンなど多くの機能性成分が含まれています。福田教授は疎水性低分子の運搬に関わるリポカリンタンパク質を新たに見出し、分析を進めています。また獣医学研究部門武田准教授らと共同で、初乳に含まれる抗鳥インフルエンザ成分に着目し、飼料添加剤としての利用可能性を見極めようとしています。
チーズホエイにもミルクオリゴ糖はじめ多くの機能性成分が含まれます。福田教授は十勝地域で飼育されている家畜乳から集めた乳酸菌ライブラリーをもっており、新しく見つけた乳酸菌を使ってチーズホエイと酒粕を混合発酵し、機能性ペプチドを含む飲料の開発を進めています。また、凍結噴霧乾燥造粒法で作った粉乳を使い、チーズホエイを排出しないような、これまでにない、新しい乳製品の開発にも取り組んでいます。
福田教授は、未利用資源の有効活用を通じて地域の乳関連産業を活性化したいと考えています。このような取り組みを地道に進めていくことが、日本の未来の食を支えていくことにつながると期待されます。
福田教授の研究にご興味のある方は是非、ワンストップ窓口からお問い合わせください。

チーズホエイと酒粕を混合し、乳酸菌で発酵したもの(図中左、メジューム瓶の中の液体)

凍結噴霧乾燥造粒装置(東京理化器械社製)
●帯広畜産大学 教員紹介 福田 健二教授
https://www.obihiro.ac.jp/faculty-r/kenji-fukuda
●研究シーズ
https://www.obihiro.ac.jp/facility/crcenter/seeds/357
2. まちの魅力と地域ブランド戦略

少子高齢化や人口減少が進む中、多くの自治体が「地域ブランド戦略」に活路を見出しています。地域固有の資源を再発見し、独自の価値として発信することで、観光誘致や移住促進、産業振興を図る取り組みです。今回は、全国の注目事例を調べましたので、ご紹介します。
●アートで島を再生:香川県・直島
瀬戸内海に浮かぶ直島は、かつては過疎化に悩む小さな島でしたが、現代アートを軸にした地域再生プロジェクトで世界的な注目を集めました。ベネッセアートサイト直島を中心に、島全体が美術館のような空間に変貌。観光客の増加により、地域経済も活性化しました。アートという非日常体験が、島の魅力を引き出した例として有名です。
「直島(なおしま)観光旅サイト」直島町観光協会公式
https://naoshima.net/
●「ないものはない」精神:島根県・海士町
「ないものはない」という逆転の発想で注目されたのが、島根県の離島・海士町です。財政難と人口減少に直面する中、地元の資源と人材を活かして新たな産業を創出。特産品のブランド化やICTの活用により、若者の移住も進んでいます。
海士町公式ウェブサイト
https://naimonowanai.town.ama.shimane.jp/menu
●歴史と伝統がつなぐ:山形県「最上紅花」
山形県では、伝統作物「最上紅花」の地域ブランド化をすすめています。紅花染めや化粧品などへの活用に加え、体験型観光や教育とも連携し、農業と文化を融合した持続可能な地域づくりに取り組んでいます。2019年には日本農業遺産にも認定。
山形県ウェブサイト
https://www.pref.yamagata.jp/140032/sangyo/nourinsuisangyou/nogyo/sogo/nougyouisan2022.html
●地元農産物を主役に:茨城県行方市「さつまいも課」
ユニークなネーミングで話題を呼んだのが、茨城県行方市の「さつまいも課」。市役所内に実在するこの部署は、さつまいものブランド化と販路拡大を担い、農業の6次産業化を推進しています。行政が主体となってブランド戦略を実行する、実務的なモデルです。
行方市さつまいも課ウェブサイト
https://satsumaimoka.com/
●新たな特産品づくり:静岡県磐田市「レモン産地化プロジェクト」
磐田市では、温暖な気候を活かしてレモンの産地化に挑戦。農家と行政が連携し、栽培から加工・販売までを一体化したブランド戦略を展開しています。新たな特産品の創出は、地域のイメージ刷新にもつながっています。
磐田市 【レモン産地化】新たな特産物産地形成支援事業費補助金 ウェブサイト
https://www.city.iwata.shizuoka.jp/sangyou_business/nougyou/1008767/1013276.html
一方で、地域ブランド戦略には失敗事例もあります。例えば、観光資源の活用が不十分で、ブランドの方向性が曖昧だったことから、期待された経済効果が得られなかった事例や、外部コンサルタントに依存しすぎた結果、地域住民の共感を得られずにプロジェクトが定着しなかった事例もあるようです。
このような失敗例に共通するのは、「地域の特性を活かしきれていない」、「住民の主体的な関与が不足している」、「短期的な成果を求めすぎた」といった点のようです。ブランドは一朝一夕に育つものではなく、地域でじっくりと育てていく必要があります。
地域ブランド戦略は、地域の未来を切り拓くための重要な手段です。しかし、成功の鍵は「地域らしさ」と「住民の共感」にあります。北海道国立大学機構としても、全国の事例を参考に、地域と連携しながら持続可能なブランドづくりに貢献していきたいと考えています。是非、いっしょに取組みませんか。ワンストップ窓口からご連絡ください。
3. 知的財産の活用~地域の“知”を価値に変える取組み

大学や地域の企業などが持つ技術やアイデアを、どうやって“価値”に変えていくか、その鍵のひとつとなるのが「知的財産」の活用です。特許庁が令和6年度から開始した「知財経営支援モデル地域創出事業」※1は、地域ぐるみで知財活用を支援する新たな取り組み。令和7年度に愛知県、山口県、熊本市、令和6年度に青森県・石川県・神戸市がモデル地域に選ばれ、自治体・商工会議所・弁理士会・金融機関などが連携し、企業の知財活用を伴走支援しています。
※1 特許庁HP 知財経営支援モデル地域創出事業
https://www.jpo.go.jp/support/chusho/boshu_model.html
青森県では、デザイン経営と知財を組み合わせたワークショップを通じて、企業の強みを“見える化”する支援が進行中です。石川県では伝統工芸や観光資源を活かしたブランド戦略、神戸市ではスタートアップや医療分野の技術シーズの社会実装が注目されています。これらの事例は、知的財産を「守るための制度」から「地域の価値を育てる戦略」へと転換する動きを象徴しています。
北海道はどうでしょうか。他の地域と比較すると、「知的財産」の活用に関してはまだまだ取組みが少ないかもしれません。しかし、経済産業省北海道経済産業局では、令和7年度から「中小企業等知的財産支援地域連携促進事業費補助金」※2の公募を開始し、大学や産業支援機関と連携した知財支援の仕組みづくりを後押ししています。千歳市は、ラピダス社の立地を契機に、次世代半導体を軸とした複合拠点形成事業を展開中です。人材育成・研究開発・産学官ネットワークの整備を通じて、地域の産業基盤を強化しようとしています。
※2 経済産業省北海道経済産業局HP 令和7年度 中小企業等知的財産支援地域連携促進事業費補助金の採択事業を決定
https://www.hkd.meti.go.jp/hokip/20250626/index.htm
こうした動きを参考に、北海道国立大学機構も知的財産の獲得、活用を強化する取組みをすすめています。今後は地域と協力して地域が有する“知”の価値を見出し、必要な権利を守るとともに育てて活用したいと考えています。このような取組みのプロセスは、地域の知財マインドが醸成されるとともに、人材育成にもつながるはずです。地域の“知”を価値に変える取組みにご興味のある方、いっしょに考えませんか。ワンストップ窓口からご連絡ください。
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IICニュースレターでは、地域の課題を解決し、新たな価値を共創するための情報を発信しています。また、企業へのインタビューなどを通して、地域の未来をいっしょに考える場づくりにも活用しています。
今後、こんな特集をしてほしい、もっとこういう取組みが必要だ、といったご意見、ご要望もお待ちしています。また、この記事は面白かった、あるいは面白くなかったなど、なんでもお気軽にお問合せください。
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