IIC News Letter 第15号(令和7年12月配信)
<IIC News Letter第15号>
北海道国立大学機構の産学官金連携統合情報センター(IIC)がお届けするIIC News Letter第15号です。定期的に3大学の教育研究活動や行政・サービス機関、産業界からの最新情報を分析・整理して皆様にお届けします。
目次
1. 【研究紹介】従来の科学にフロンティアは存在しないのか?
2. 半導体時代の北海道における人材育成とは
3. 寒冷地の防災を支えるために、大学ができること
1. 【研究紹介】従来の科学にフロンティアは存在しないのか?
『従来の科学にフロンティアは存在しないのか?』北見工業大学の准教授、植西は日々このような事を考える。
植西の専門は熱流体工学であるが、キャリアの中で、応用化学や化学工学に関する研究フィールドに強引に、そして、幸運にも、引き摺り込まれてきた。
化学反応とは物質と物質が結合して、新しい物質を作る現象である。その結果として、自然に存在しない付加価値が得られる。そんな事は少し化学を勉強した事がある人なら誰でも知っていることである。
しかし、なぜ、化学反応が起こるのかに関して、知っている人となると少し少なくなる。それぞれの物質を構成する原子の中の電子が相互にやり取りをする事で、化学反応は進む。しかし、これも『化学』と名の付く学科を真面目に勉強して卒業した人間なら知っている。しかし、全ての化学反応、つまり、原子の中の電子のやり取りを如何様にでも制御できると言う研究者、技術者はいるだろうか?
化学反応は一般に高温にすれば電子が励起されて反応が進む。しかし、①投入できるエネルギーには常識的な限界がある、②化学反応によって、好む温度(あるいは圧力)が異なる、と言う課題がある。
さらに、植西が専門とする触媒化学を利用するという方法もある。ハーバー・ボッシュ法や三元触媒などは触媒を利用し、人間の生活を安全で豊かなものにした革新的な技術である。しかし、全ての化学反応を低コスト、かつ、低エネルギーで促進する触媒は見つかっていない。
さらに、原子内の電子を制御したいのであれば、こちらも植西が専門とする直接電子を制御するという方法である電気化学を利用すると言うのも手である。燃料電池や水の電気分解など、カーボンニュートラル社会実現に向けて、鍵となる技術は電気化学で支えられている。しかし、電極の耐久性やコスト、電気化学反応以外に必要なエネルギーが大きいなど、課題は山積している。
触媒を利用して電子のやり取りをサポートする『触媒化学』と直接電子を制御して反応を促進する『電気化学』の両方の良い所を融合できないかと植西は考えた。
そこで、雷のような高電圧を従来のような触媒反応場に印加する『電場触媒』という技術に着目し、二酸化炭素・メタンの回収・資源化の低コスト・低エネルギー化を目指し、企業ともスクラムを組みながら、早期の社会実装に向けて、日々研究に取り組んでいる。


『従来の科学にフロンティアは存在しないのか?』。誰もが知っている化学反応でさえ、自由自在にコントロールできない現実において、実際にはまだまだフロンティアが眠っているのでは、そのフロンティアはどうやれば、見つけられるのか、植西は日々考えている。
もし、悶々としたこの悩みにヒントをくれる人がいれば、自由に意見を伝えてあげてほしい。
植西准教授の研究にご興味のある方は是非、ワンストップ窓口からお問い合わせください。
●北見工業大学 教員の紹介 植西 徹 准教授
https://www.kitami-it.ac.jp/about/academicstaff/1358/
●研究シーズ
二酸化炭素、メタンの回収技術に関する研究
https://www.crc.kitami-it.ac.jp/wp-content/uploads/2025/11/seeds2025-018.pdf
二酸化炭素、メタンの資源化技術に関する研究
https://www.crc.kitami-it.ac.jp/wp-content/uploads/2025/11/seeds2025-019.pdf
寒冷地向け低コスト燃料電池の開発
https://www.crc.kitami-it.ac.jp/wp-content/uploads/2025/11/seeds2025-020.pdf
2. 半導体時代の北海道における人材育成とは

国家プロジェクトでもあるラピダス社を中核とする最先端の半導体製造拠点が、北海道に整備されようとしています。これは単なる産業誘致ではなく、地域の教育、研究、暮らしにまで波及する大きな転換点になるといえます。こうした動きは、TSMC社が2021年に工場建設を正式発表した熊本で先行しており、大学や高等専門学校を中心に、地域ぐるみの人材育成が進んでいます。
熊本では、専門技術者の育成に加え、製造現場を支える実務人材や、地域企業との連携を担う中核人材の育成にも注力しています。大学は新たなカリキュラムの開発や社会人向けのリスキリング講座を展開し、自治体や経済団体と連携しながら、地域全体で半導体人材のすそ野を広げています。このような取組みは、産業と地域社会の橋渡し役としての大学の存在感を高めているといえます。
北海道においても同様の視点が求められます。既に北海道と熊本の自治体では連携協定が締結されており※1、南北で人材育成や産業支援の知見を共有する動きが始まっています。半導体産業が根付いている熊本の経験は、北海道の教育機関にとって大きなヒントとなります。
※1北海道 「北海道と熊本県との半導体関連国家プロジェクト推進等に関する連携協定」について
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/kz/zhs/206632.html
北海道内にある理工系の大学や高等専門学校においては、寒冷地技術、エネルギー、環境、防災、情報通信など、地域の特性に根ざした研究と人材育成が行われており、他の地域にはない強みとなっています。これらの大学・高等専門学校は、地域に密着した教育機関として、地元企業や自治体との信頼関係を築きながら、実践的な学びを提供しています。
とはいえ、いくつか課題もあります。例えば、少子化に伴う学生数の減少や、専門分野の教員確保の難しさ、研究資源の都市部への集中といった構造的な制約がありますが、文部科学省によると、2030年までに北海道では約6000人の半導体関連人材が必要とされています※2。また、地域との連携体制も、個々の教員や担当者の熱意に依存しているケースがあり、持続可能な仕組みづくりも求められています。さらに、技術者だけでなく、国際的な視野を持つ人材、マネジメントや調整力を備えた人材、さらには地域社会との共生を支える人材の育成も期待されています。
※2文部科学省 半導体人材の育成に向けた取組について
https://www.mext.go.jp/content/20240627-mx_kankyou-000036752_4.pdf
そのため、大学は寒冷地特有のインフラ課題や移住者支援といった周辺環境の整備対応も含め、多様な知を束ねる拠点としての役割を担う必要があります。熊本の事例が示すのは、大学が単なる人材供給機関ではなく、地域の変化を先読みし、産業・行政・住民をつなぐ知のハブとして機能することの重要性です。北海道内の地方大学もまた、課題と向き合いながら、自らの強みを再定義し、地域とともに半導体時代の未来を描く取組みを進めていく段階に来ています。
3. 寒冷地の防災を支えるために、大学ができること

12月8日の夜遅くに青森県東方沖で大きな地震があり、北海道でも被害がでたほか、12月14日には、これまで比較的雪が少なかった北海道東部(道東)で大雪となるなど、かつては想定されなかった災害が起きるようになってきました。冬場の、特に深夜においては避難の在り方や寒さ対策など、考えさせられました。
そのため、寒冷地に暮らす地域の人々には、これまで以上に「備える力」が必要になってきています。
こうした現実に向き合うとき、地域の大学は何ができるでしょうか。それは、都市部の大学では見えにくい、地域の細やかな課題に気づき、共に考え、共に動くことです。地域に根ざす大学だからこそ担える使命と考えます。
例えば、北見工業大学では、寒冷地特有のインフラ脆弱性に対応するため、凍結地盤や積雪荷重を考慮した耐震設計、エネルギー自立型の住宅開発など、工学的アプローチによる防災・減災の取り組みが行われています。帯広畜産大学では、獣医学や農業経済学の視点から研究が進められており、災害時に農村地域における家畜管理や食料供給体制の維持に貢献できるはずです。小樽商科大学では、防災英語カリキュラム開発について研究が進められており、災害時に英語で支援が必要な人々のために活躍できる言語ボランティアの育成に役立ちます。
さらに、3大学では地域との連携を重視したさまざまな教育・実践活動も展開しています。
地元自治体と協力して避難所開設訓練に参加したり、防災&防犯イベントを開催したりと、地域の一員として災害への備えに関わること自体が、地域とともに生きる力を育む学びの場になっています。
北海道の地方に位置する北海道国立大学機構・3大学は、人口減少や産業の変化といった構造的な課題に直面する地域において、「知の拠点」であると同時に、「希望の拠点」にもなり得ると考えています。災害という極限の状況においても、地域の中に大学があることが、安心や連携の起点となります。これは、都市部の大学には担いきれない、地方に位置する大学ならではの価値といえます。
災害はいつかやってきます。だからこそ、今どう備えるかが問われています。寒冷地で地域に根ざす大学が、地域の細やかな課題に気づき、共に考え、共に動くこと。地域の大学がこの土地に存在する理由であり、地域社会に向けた責任でもあります。
防災に関する研究の他、多様な研究について11月末に公開された「3大学研究者検索サイト」から簡単に検索できます。
3大学研究者検索サイト
https://guidebook.nuc-hokkaido.ac.jp/
「寒冷地」、「農業経済」、「防災」など、キーワードを入力してみてください。また、SDGsからも研究者を検索できるようになっています。
是非、ご活用ください。
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IICニュースレターでは、地域の課題を解決し、新たな価値を共創するための情報を発信しています。また、企業へのインタビューなどを通して、地域の未来をいっしょに考える場づくりにも活用しています。
今後、こんな特集をしてほしい、もっとこういう取組みが必要だ、といったご意見、ご要望もお待ちしています。また、この記事は面白かった、あるいは面白くなかったなど、なんでもお気軽にお問合せください。
国立大学法人北海道国立大学機構
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