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2025/10/28

IIC News Letter 第13号(令和7年10月配信)

<IIC News Letter第13号>

北海道国立大学機構の産学官金連携統合情報センター(IIC)がお届けするIIC News Letter第13号です。定期的に3大学の教育研究活動や行政・サービス機関、産業界からの最新情報を分析・整理して皆様にお届けします。

 

目次

1. 【研究紹介】歴史的建造物がよみがえる-企業がつなぐ文化資産と地域の未来-

2. 人気学部と職のミスマッチ? 理系・文系の進路

3. 地域課題の解決に向けた教育・研究機関と企業の連携-カーボンゼロ農業

4. 特許情報

 

1. 【研究紹介】歴史的建造物がよみがえる-企業がつなぐ文化資産と地域の未来-

歴史的建造物は、地域の文化やイメージを後世に残すための貴重な資産ですが、少子高齢化や自治体の財政難により、保全の担い手が不足しているのが現状です。

そんな中、企業が歴史的建造物の保全と活用に取り組む活動が注目されています。小樽商科大学の木田世界准教授は、企業によるこうした活動を「CSR(企業の社会的責任)」や「CSV(共有価値の創造)」の観点から研究しています。CSRとしては、文化支援(メセナ)や街づくりへの貢献、CSVとしては経済的価値と社会的価値の両立を目指す戦略的な取り組みと位置づけられます。

CSRには街づくりへの貢献として、地域の景観や住環境を守ることも含まれる

企業が歴史的建造物の保全と活用に取り組む際の課題としては、地域住民との連携や、建物の価値評価の難しさが挙げられます。歴史的建造物は景観を構成する地域の公共財的な存在であり、企業が保全に取り組むには地域との対話や理解が欠かせません。また、文化的な価値評価は主観的な判断に依存する部分が多いため、企業が費用を投じる正当性をどう示すかも重要なポイントです。

北海道小樽市には、石造りの倉庫や洋風の銀行建築など、明治・大正期の面影を残す歴史的建造物が数多く残っており、実際に企業による活用事例が誕生しています。

家具・インテリアの(株)ニトリは、旧三井銀行小樽支店や旧高橋倉庫などを改修し、「小樽芸術村」として美術館を開設しました。これにより、歴史的建造物が観光資源として再生され、地域文化の継承に貢献しています。

また、(株)星野リゾートは、旧小樽商工会議所をリノベーションし、「OMO5小樽」という宿泊施設を開業しました。地元の三角市場と連携した「朝市で勝手にお節介丼ツアー」など、地域ならではの体験を提供し、観光消費を促進しています。これにより、地域経済への波及効果も生まれています。

木田准教授は、企業による歴史的建造物の保全と活用が、地域の文化資産を守りながら地域活性化につながる可能性を示しています。企業と地域が協力し、歴史的な文化遺産を未来へとつなぐ取り組みは、今後もさらに広がっていくと考えられます。

地域に根差した大学を構成する北海道国立大学機構もまた、地域との連携を通じ、知の拠点として地域文化の継承と社会的価値の創出に貢献できるよう、取り組みをすすめてまいります。

 

2. 人気学部と職のミスマッチ? 理系・文系の進路

2040年、日本では人材需給のミスマッチが生じるという予測が出ています。「人気学部」と「将来求められる職」から見てみます。

文部科学省が令和7年10月に発表した「大学教育の現状について」では、全国の大学がどんな分野に力を入れているか、そして学生たちがどんな進路を選んでいるかが詳しく紹介されています※1

2000年以降は、全体の入学者数が微増で推移しています。専攻分野別に入学者数をみると、「保健」、「その他(文理融合型の複合的新領域を含む)」が増加する一方で、「工学」、「理学」などの入学者数は減少傾向にあります。「人文科学」、「社会科学」も減少傾向にあるものの、依然として高い人気があります。

専攻分野別入学者数の推移(文科省資料「大学教育の現状について」より掲載

 

学生の構成比率をみると、国立大学では、自然科学系(理学・工学・農学など)、保健系(医学・歯学など)の理系分野が多くの割合を占めている一方、私立大学では人文科学・社会科学系などの文系分野が半数近くを占めており、文系に偏っている傾向があります。

構成比率(左:国立大学(86大学)、右:私立大学(624大学))(文科省資料「大学教育の現状について」より掲載)

 

卒業後の進路にも違いが見られます。理学・工学・農学系では大学院に進む人が多く、専門性を深める傾向がある一方で、人文・社会科学系では大学院進学や専門職への就職が少なく、一般企業などへの就職が中心になっています。保健系では、専門職への就職率が高く、進路が比較的はっきりしているようです。

 

学士課程修了後の分野別進路(文科省資料「大学教育の現状について」に基いて作成)

一方、経済産業省が令和7年6月に発表した「「2040年に向けたシナリオ」の定量化と2040年の就業構造推計について」を見ると、2040年にはどんな人材が求められるかの予測が示されています※2。経済産業省の試算によると、2040年には大学・院卒の理系人材が100万人以上不足し、大卒・院卒の文系人材は約35万人の余剰が生じる見込みです。背景には、少子化による進学者数の減少と、産業界における理系人材の需要増加があります。

 

労働需要と供給のミスマッチ(経産省資料「「2040年に向けたシナリオ」の定量化と2040年の就業構造推計について」に基づいて作成)

このような大学全体の状況を踏まえて、道内の国立3大学が統合した北海道国立大学機構は、地域のニーズに応じた教育と研究がますます重要になってくると考えています。

理系分野では、農業や環境、医療など北海道ならではのテーマに取り組みながら、大学院進学や専門職への道を見据えた学びを充実させること、文系分野では、地域社会とつながる学びを広げて、学生が地域で活躍できる力を育てることが重要と考えます。

また、大学がどんな教育をしているのか、卒業後にどんな進路があるのかを、もっとわかりやすく発信していくことも重要と考え、高校生や保護者が安心して進学先を選べるよう、情報の見える化を進めています。北海道の未来を担う若者たちが自分の可能性を広げられるよう、北海道国立大学機構は、地域と協力しながら未来を支える人材を育てていきます。

※1 文部科学省 大学教育の現状について(令和7年10月)
https://www.mext.go.jp/content/20251008-mxt_koutou01-000045195_6.pdf

※2 経済産業省 「2040年に向けたシナリオ」の定量化と2040年の就業構造推計について(令和7年6月)
https://www.mext.go.jp/content/20250618-mxt-sigakugy-000042937_08.pdf

 

3. 地域課題の解決に向けた教育・研究機関と企業の連携-カーボンゼロ農業

気候変動の影響が広がる中、農業の現場では「環境負荷を減らしながら安定した収益を得る」ことが求められています。注目されているのが、カーボンゼロ農業とイチゴの周年栽培の組合せです。カーボンゼロ農業とは、太陽光や風力などの自然エネルギーを使って農園の電力をまかない、環境負荷を減らしながら収益性のある農業モデルを構築しようというもの。

イチゴは本来、気温が17〜20℃前後の涼しい季節に適した作物であり、日本では冬から春にかけての栽培が一般的です。しかし、夏季は高温のため品質が安定せず、流通量が減少するため、夏のイチゴは価格が高くなってしまい、尚且つ安定的な調達に課題があります。

そこで、北海道内の研究機関と民間企業が協力しながら、カーボンゼロ農業を取り入れたイチゴの周年栽培に関する実証実験がすすめられています※3。この技術は、太陽光発電やヒートポンプ、蓄電池などの再生可能エネルギーを活用し、ハウス内の温度や湿度を自動制御することで、猛暑下でも甘くて大きなイチゴを安定して収穫できるようにするものです。また、従来の化石燃料を用いる場合と異なり、再生可能エネルギーの使用によりCO₂排出を大幅に削減できます。このように、環境と経済の両立が可能になるものです。

背景には、教育・研究機関が持つ知見と、企業の実践力を組み合わせて、地域課題の解決につなげようという共通の思いがあります。北海道の豊かな自然と食文化を未来につなげるために、地域社会と研究機関が協力する取組みがすすんでいます。

帯広畜産大学と企業が連携して取り組んでいる、垂直型ソーラーパネルを活用した営農型太陽光発電の実証実験※4もその1つと言えます。この他にも、帯広畜産大学、北見工業大学、小樽商科大学が経営統合して誕生した北海道国立大学機構にはさまざまな研究シーズがあります。ぜひお気軽にワンストップ窓口までお問い合わせください。

※3 企業と大学が連携したカーボンゼロ農業への取組み例
https://press.jal.co.jp/ja/release/202510/009059.html

※4 帯広畜産大学畜産フィールド科学センター圃場における営農型太陽光発電の実証研究
https://www.obihiro.ac.jp/news/69020

 

4. 特許情報

北海道国立大学機構が持っている知的財産権を順次ご紹介しています。今回は、「専門用語抽出装置、専門用語抽出方法及びプログラム」と、「半導体メモリセル構造及び半導体記憶装置」の2件です。共同研究やライセンス契約検討の参考にしてください。

内容は、特許請求の範囲、発明の詳細な説明、図面の記載に基づいてまとめています。ご興味がある方は、ワンストップ窓口までお問い合わせください。

 

●特許第7557770号(専門用語抽出装置、専門用語抽出方法及びプログラム)

専門性の高い技術文書などの文章から重要な語句を抽出するには、これまで手作業で行う必要があり、多くの時間を要してきました。そこで、文章中から専門用語を効率的に抽出するための技術を開発しました。この発明は、専門分野に関する事前知識を必要とせず、専門分野の用語集に掲載されていないような語句であっても網羅的に抽出できるため、例えば用語集を整備、更新する際に役に立ちます。

※画像を選択するとPDFファイルが開きます。

 

●特許第7341484号(半導体メモリセル構造及び半導体記憶装置)

従来の不揮発性メモリは、構造が複雑となって回路面積を小さくすることができないという課題がありました。この発明は、一方の電極層の界面に整流機構を作成することで回路面積の増大を回避し、単純な構造で整流機能とメモリ機能を同一セル内で実現できる技術です。また、材料や製造における低コスト化も可能です。

※画像を選択するとPDFファイルが開きます。

 

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IICニュースレターでは、地域の課題を解決し、新たな価値を共創するための情報を発信しています。また、企業へのインタビューなどを通して、地域の未来をいっしょに考える場づくりにも活用しています。

今後、こんな特集をしてほしい、もっとこういう取組みが必要だ、といったご意見、ご要望もお待ちしています。また、この記事は面白かった、あるいは面白くなかったなど、なんでもお気軽にお問合せください。

 

国立大学法人北海道国立大学機構
産学官金連携統合情報センター(IIC)
〒080-8555 帯広市稲田町西2線11番地
Tel:0155-65-4344
E-Mail:iic@office.nuc-hokkaido.ac.jp

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